広場恐怖症とは
「電車の中で気分が悪くなったらどうしよう」「この場から逃げられなかったら」
──そんな不安から、外出が怖くなってしまうことはありませんか?
広場恐怖症(アゴラフォビア)は、不安障害の一種で、「特定の場所や状況でパニック発作が起きたときに助けが得られない、または逃げ出すのが難しい」と感じることで、強い恐怖や不安を引き起こす症状です。広場や公共の場だけでなく、実際には以下のような多様な状況が対象となります。
- 公共交通機関(電車、バス、飛行機など)
- 広い場所(駐車場、橋、市場など)
- 閉鎖された空間(映画館、エレベーター、商業施設など)
- 列に並ぶ、または人混みの中にいる
- 自宅の外に一人でいる
これらの状況では「もし体調が悪くなっても逃げられない」「誰も助けてくれないのでは」という不安が強くなり、結果として外出など日常生活に制限が生じます。
広場恐怖症の症状
広場恐怖では、心と体のさまざまな反応が複合的に現れます。これらの症状は人によって異なりますが、
「またあのつらい感覚が起きるのでは」という思いが強くなるほど、症状は悪化しやすくなります。
心理的症状
強い不安感や恐怖感
「逃げられない」「助けが得られない」と感じ、パニック発作を起こすのではという恐怖に襲われます。特定の場所や状況にいることで、コントロール不能な不安に襲われます。
予期不安
以前に発作を経験した場所や状況を思い出し、「また起きるのではないか」と強い不安を抱くようになり、まだ起きていないことにも強く緊張してしまいます。
「昨日までは何ともなかったのに、今日は駅に行くだけで不安になった」
──そんな経験も広場恐怖ではよく見られます。
身体的症状
広場恐怖ではパニック発作を伴うことが多く、以下のような身体症状が突然現れます。
- 動悸、心拍数の増加
- 息切れ、呼吸困難
- 胸の痛みや圧迫感
- 発汗
- めまい、ふらつき感
- 吐き気や腹部の不快感
- 体の震え
- 手足のしびれ
- 現実感の喪失(現実ではない感じ)
- 自分が自分でないような感覚(離人感)
行動的症状
- 不安を感じる状況や場所を避けるようになる(例:電車、ショッピングモール、人混み)
- 一人での外出が難しく、誰かに付き添ってもらわないと不安になる
- 徐々に行動範囲が狭くなり、外出できる場所が限られてくる
広場恐怖症の原因
広場恐怖症は、パニック障害と関連して発症することがあります。過去に外出先でパニック発作を経験したことがきっかけとなり、「また発作が起きるのでは」と恐れ、その場所や状況を避けるようになるケースが多いです。また、人混みや閉ざされた空間にいたときに体調を崩した経験があると、「またあの感覚が来たらどうしよう」という予期不安が生まれ生活に支障をきたすようになることがあります。
その他、遺伝的要因、性格的な傾向(不安が強い性格など)、過去のトラウマも影響すると考えられています。
広場恐怖症になりやすい人の特徴はある?
- 乗り物でのトラブル経験がある人
- 感受性が豊かで刺激に敏感な人
- 内向的で物事を深く考え込む傾向のある人
- 家族に不安障害の既往がある人・10代後半から30代の若い世代や、女性に多く見られる傾向がある
広場恐怖症の診断基準
広場恐怖症の診断基準は、主にアメリカ精神医学会のDSM-5に基づいています。
以下のような恐怖や不安が、
以下の5つの状況のうち2つ以上に対して存在する
- 公共交通機関の利用(例:電車、バス、飛行機)
- 広い場所(例:駐車場、市場、橋)
- 閉鎖された場所(例:映画館、商業施設)
- 列に並ぶ、または人混みの中にいる
- 家の外に一人でいる
また、以下のような項目が当てはまる場合に
広場恐怖症と診断されます。
- これらの状況で「逃げるのが難しい」「助けが得られないのでは」と感じることが恐怖や不安の中心にある。
- その状況はほとんど常に恐怖や不安を引き起こす。
- その状況は積極的に避ける、または強い恐怖や不安を感じながら耐え忍ぶ、もしくは誰かと一緒でないと耐えられない。
- 恐怖や不安は、その状況に対して過剰である。
- 恐怖や不安は、社会的機能や職業的機能、または他の重要な領域で著しい支障を引き起こしている。
広場恐怖症の治し方
広場恐怖は、適切な治療と支援によって回復し、これまで通りの生活を取り戻すことができます。
治療は生活習慣改善・薬物療法・認知行動療法・社会的支援を組み合わせることが効果的です。
生活習慣改善
小さな生活習慣の見直しを積み重ねることで身体と心の安定につながります。
- 不規則な生活習慣、睡眠不足の改善
- アルコール、ニコチン、カフェインを控える
- 疲労やストレスをためこまない
- バランスの取れた食事や適度な運動を無理のない範囲で行う
薬物療法
薬物療法は、恐怖や不安の軽減を目的として行われます。主に次のような薬が使われます。
抗うつ薬(SSRI・SNRI)
広場恐怖症では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が第一選択薬です。これらは不安の軽減や発作の予防に有効です。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)
即効性があるため、急性の強い不安やパニック発作時に使われますが、依存性のリスクがあるため短期間の使用が推奨されます。
認知行動療法
恐怖を感じる場所や状況に段階的に慣れていく方法で、回避行動を減らし、不安への耐性を高めます。例えば、まずは外出の練習から始めていき、徐々に公共交通機関の利用などにも挑戦していきます。また、「この場でパニックになったらどうしよう」といった不安を引き起こす思考のクセを見直し、現実的な考え方に置き換えるトレーニングを行います。
家族や友人の支援
安心できる人間関係や、つらさを共有できる環境も回復において欠かせません。まずは不安を受け止め、外出や、通院、服薬の継続をサポートしましょう。