自律神経失調症とは
「最近、なんだかずっと調子が悪い」「病院で検査しても異常はないのに、毎日どこか不調がある」
──そんな経験はありませんか? それはもしかすると、“自律神経失調症”と呼ばれる状態かもしれません。
自律神経失調症とは、交感神経と副交感神経という2つの神経のバランスが乱れることで、身体や精神にさまざまな不調が現れる状態です。精神医学的には「身体症状症」「心身症」「不安障害」などのカテゴリーと重なる部分があり、背景にはストレスや生活習慣の乱れ、心理的負荷、性格傾向などが関与します。特にストレス社会に生きる私たちにとってはとても身近な問題です。
症状は多様で個人差が大きいのが特徴です。代表的なものとして動悸・息切れ・めまい・胃腸の不調・慢性的なだるさ・不眠・気分の落ち込みなどが挙げられます。これらの症状は、体だけでなく心にも深く関係しており、検査で異常が見つからないことも多く、しばしば“原因不明の体調不良”として扱われてしまうことがあります。
このような状態は“気のせい”ではなく、自律神経の働きがうまくいかなくなっている「体のSOS」でもあります。特に、頑張り屋で感情を抑えがちな人、変化の多いライフイベント(転職・育児・更年期など)を迎えている人に多く見られます。
「朝、会社に行こうとするとお腹が痛くなる」「通勤電車で毎回めまいがする」
──そんな“日常にひそむ違和感”がサインかもしれません。
大切なのは、早めに気づき、自分を責めず、適切なケアにつなげること。交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなることで、心身の不調が慢性化することもあります。身体と心のバランスが崩れかけているサインに耳を傾け、自律神経失調症を“自分を見直すきっかけ”として捉えることが、回復の第一歩となります。
神田メンタルクリニックでは、患者さま一人ひとりのお話を丁寧に伺い、その方に合った治療方針をご提案しています。「何科に相談したらよいかわからない」「うまく説明できない」と感じている方も、どうぞ安心してご相談ください。
自律神経失調症の原因
自律神経は、私たちの意思とは無関係に常に働く機能(呼吸・血圧・代謝・心拍など)を司る神経です。自律神経失調症は、神経生理学的なメカニズムと、生活・心理・環境といった外的要因が複合的に影響し、この自律神経のバランスが乱れることで起こります。
神経生理学的要因
自律神経の調整中枢の機能低下
自律神経は視床下部から全身の内臓や血管、汗腺などを無意識下で調整しています。ストレスが慢性化すると、この中枢系が過敏または機能低下を起こし、恒常性が崩れます。
ストレスホルモンによる自律神経の機能不全
慢性ストレスは視床下部—下垂体—副腎(HPA)軸を活性化させ、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンが過剰に分泌される状態をつくります。これが自律神経系に持続的な刺激を与え、交感神経優位な状態が続くと副交感神経がうまく機能しなくなります。
ホルモンバランスの変化
特に女性は思春期・妊娠・出産・更年期などホルモン変動の影響を強く受け、自律神経の働きが不安定になりやすいとされています。
心理的要因
持続的な精神的ストレス:職場の人間関係、家庭内の不和、将来への不安など、心理的なストレスは視床下部を介して自律神経に強い影響を及ぼします。
感情の抑圧
怒り、悲しみ、不満といった感情を自覚的に表現できないと、身体化症状として自律神経症状が現れる傾向があります。
性格特性
神経質、完璧主義、几帳面、自己犠牲的、常に頑張りすぎるタイプは交感神経が優位になりやすく、慢性的な緊張状態が続きます。
社会的・環境的要因
生活リズムの乱れ
夜更かし、スマホ・PCの長時間使用、交代制勤務、昼夜逆転生活などで、体内時計(サーカディアンリズム)が乱れると、昼間でも副交感神経がうまく働かず、疲れが取れにくくなります。
家庭・職場での役割負担
家事・育児・介護・職場での責任の多重負荷など、「常に気を張っている状態」が続くことで交感神経優位が慢性化します。
自律神経失調症の症状
自律神経失調症の症状は、身体と精神の両方にまたがり、その種類は非常に多岐にわたります。症状の現れ方には個人差が大きく、複数の症状が同時に出ることもあれば、日によって変化する場合もあります。
身体的な症状
- 動悸、息切れ
- めまい、ふらつき
- 頭痛、肩こり
- 胃腸の不調(腹痛、下痢、便秘)
- 手足の冷え、しびれ、ほてり
- 発汗異常(多汗・寝汗)
- 倦怠感、だるさ
- 不眠、寝つきの悪さ
「会議前になると毎回お腹が痛くなりトイレに駆け込む」「夜中に心臓がバクバクして目が覚める」など、状況や時間帯に応じて現れることもあります。
精神的な症状
- 不安感、緊張感
- イライラ
- 気分の落ち込み、抑うつ気分
- 集中力の低下
- 感情の起伏が激しい
- 何となく不安定な気分 など
周囲から「気にしすぎ」「甘えてる」と受け取られることもありますが、自律神経の調整機能がうまく働かなくなることで実際に体内の機能が乱れ、つらい症状として現れているのです。
症状の特徴と傾向
症状は朝に強く出やすい
交感神経が優位になる朝方に、動悸や吐き気を感じやすくなる傾向があります。
休日になると軽快することがある
ストレスが主因のケースでは、仕事や人間関係から離れると症状が和らぐこともあります。
月経周期や気圧の変化に敏感
女性では月経前後に症状が悪化しやすく、気圧や天候にも影響を受ける人も少なくありません。
自律神経失調症になりやすい人の特徴はある?
自律神経失調症は誰でもなりうる可能性のあるものです。しかし特に“なりやすい傾向”を持つ人が存在します。これは遺伝的な体質に加え、性格傾向、ライフスタイル、ストレス耐性など、複数の要因が重なることでリスクが高まります。
1.体質的な特徴
──自律神経の調整機能が繊細で過敏に反応してしまうタイプ
- 緊張するとすぐに吐いてしまう、お腹を下してしまう
- 小さい頃から乗り物酔いしやすい
- 季節の変わり目や気圧の変化に敏感
- 睡眠の質が悪い・浅い・中途覚醒が多い
- 体力がなく疲れやすい
2. 性格的傾向
- 真面目な性格で責任感が強く、頑張りすぎる
- 断ること、人に頼るのが苦手で、何でも一人で抱え込む
- 自分の気持ちを抑えこんでしまう(怒りを外に出せない)
- 他人の評価が気になり、自分に厳しい
- 完璧主義的、几帳面、正義感が強い
3. 環境・社会的要因
- 長時間労働、交代勤務、夜勤生活など不規則な生活習慣を送っている
- 転勤、転職、引っ越し、進学、結婚など生活環境が大きく変わった
- 家族の介護、育児など重い責任を担っている
- 孤立していて、悩みを話す相手がいない
4. ホルモンバランスの変動しやすい時期
思春期、更年期、月経前後などに症状が現れ、特に女性に多く見られます。
ホルモンと自律神経は相互に影響し合うため、バランスが崩れることで心身の不調が現れやすくなります。
自律神経失調症の治し方
自律神経失調症の診断と治療
自律神経失調症は、症状の多様さや検査で異常が見つからないことから、診断が難しく誤解も生じやすい病態です。そのため、医師との丁寧な対話と、総合的な視点での評価が非常に重要です。
診断の進め方
詳細な問診
いつから、どんな場面で症状が出るか、日内変動はあるか、生活習慣や心理的ストレスの有無を丁寧に確認します。
身体疾患の除外
頭痛や動悸などの症状が他の内科的疾患(甲状腺疾患、不整脈など)に起因していないかを確認するため、必要に応じて血液検査などを行います。
ストレス背景の評価
ストレスチェックや心理検査を用いて、症状の背景にある心理社会的要因を把握します。
治療の3本柱
自律神経失調症の治療は「生活習慣改善」「薬物療法」「心理的アプローチ(認知行動療法)」の3つを軸に個人に合わせて進めていきます。
① 生活習慣の改善
睡眠のリズムを整える:毎日同じ時間に寝起きし、朝は太陽光を浴びて体内時計をリセット。
軽い運動を習慣化する:ウォーキング、ストレッチ、ヨガなど自律神経を整える効果があります。
食事と休息のバランス:栄養バランスの取れた食事と、疲労を感じたら無理せず休む心がけを。
② 薬物療法
抗不安薬:不安や緊張が強い場合に使用されます。
抗うつ薬(SSRI・SNRI):気分の落ち込みや自律神経の乱れに広く使われます。
漢方薬:体質に合わせて処方されることが多く、西洋薬と併用されるケースもあります。
③ 心理的アプローチ
認知行動療法(CBT):物事の捉え方や考え方のクセを見直し、ストレスへの対処法を身につける心理療法です。心の負担を軽くし、自律神経の安定を促します。
カウンセリング:感情を吐き出し、悩みや葛藤を言語化するだけでも心が軽くなる効果があります。
自律訓練法:身体と心をリラックスさせる技法で、副交感神経の働きを促します。
自律神経失調症は良い日と悪い日を繰り返しながら、少しずつ回復していきます。また症状が改善しても再発を繰り返すことがある「波のある病態」です。そのため、症状が落ち着いた後も、予防的な視点で日常生活を見直し、無理のないペースで自分を整えていくことがとても大切です。症状がなくても、睡眠・食事・運動の基本リズムを維持することが予防につながります。
「頑張りすぎ」に早めに気づく習慣をつけ、疲れていることやイライラしていることに自分で気づき、早めに立ち止まる力を養うことが大切です。散歩や趣味、雑談など、「気分転換」は回復力を支える重要な習慣です。
ストレス発散を“意識的に”取り入れるようにしましょう。