パニック障害とは
突然、強い動悸や息苦しさ、めまい、胸の痛みなどに襲われ、「死んでしまうのでは」といった強い恐怖を感じたことはありませんか? もしかしたら「パニック障害」かもしれません。
パニック障害は、突然理由もなく強い不安や恐怖に襲われる「パニック発作」を繰り返す病気です。発作は、動悸や息苦しさ、めまい、発汗、胸痛などの身体的な症状を伴い、「このまま死んでしまうのでは」と感じるほど強い恐怖感を引き起こします。
多くの場合、発作は数分から30分ほどでおさまりますが、発作を繰り返すうちに「また発作が起きるのでは」という予期不安が生まれ、発作が起きた場所を避ける回避行動が強まり、外出や特定の場所を避けるようになることもあります。
「通勤電車で倒れそうになった経験から、電車に乗れなくなってしまった」
──このような状態が長期化すると、外出すら難しくなってしまうこともあります。
パニック障害は日常生活に大きな支障をきたすことがあるため早めの診断と治療が重要です。
パニック障害の症状
パニック発作
パニック障害の特徴は、予期しない突然の発作が繰り返し起こることと、それに伴う強い不安や行動の変化です。
主に以下の3つの側面に分けられます。
パニック発作
以下のような症状を伴う発作が時間、場所を問わず急激に生じます。1回あたりの発作は5分~30分で、長くても1時間程度です。
- 動悸
- めまい
- 息苦しい
- 呼吸困難
- 気が遠のく
- 発汗
- 震え
- 喉が詰まる
- 胸の不快感・痛み
- お腹の不快感・痛み
- しびれ
- 身体が冷たい・熱い
- 非現実感があり、自分が自分でないように感じる
- 死への恐怖やコントロールを失う恐怖がある
予期不安
一度発作を経験すると、「またあの恐怖が襲ってくるのではないか」という不安が強まり、発作が起きていないときでも常に緊張して過ごすようになります。この「予期不安」が慢性的なストレス状態を生み出し、発作の再発にもつながります。
回避行動
発作が起きた場所や状況を無意識のうちに避けるようになります。たとえば電車、エレベーター、橋、人混み、会議室など「逃げ場がない」と感じる場面を回避するようになり、外出や仕事などの社会的活動に著しい制限が生じます。
パニック発作の原因
パニック障害は、1つの原因ではなく、複数の要因が重なって発症すると考えられています。
初めてパニック発作が生じる時は、過労やストレスが要因となることが多いとされおり、発作時には、脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンが過剰に分泌され、神経が過敏に反応することで、さまざまな症状が現れます。
発作はしばしば強烈な恐怖感を伴い、その体験が「また発作が起こるのでは」という予期不安を生み出し、さらなるストレスの原因となることがあります。その結果、出社や登校、外出そのものが困難になる場合もあります。さらに、ノルアドレナリンの増加に伴いセロトニンが減少することが、不安感を一層強める要因と考えられています。
- 神経伝達物質の異常:セロトニンやノルアドレナリンのバランスの乱れ
- 脳の過敏性:扁桃体の過活動など、生理的な脆弱性
- 性格傾向:几帳面、完璧主義、感受性が強い
- ストレス:人間関係や仕事、家庭での負荷
- 遺伝的要因:家族に同様の症状を持つ人がいる場合、発症リスクがやや高まります
パニック障害になりやすい人の特徴はある?
不安や恐怖心の強い方は、パニック障害を発症しやすい傾向があるといわれています。きっかけとなるのは、心理的ストレスだけではありません。睡眠不足や肉体的疲労といった身体的なストレスも発症に大きく影響します。そのため、以下のような特徴や状態を持つ方は、そうでない方に比べて発症リスクが高いとされています。
- 真面目で完璧主義で、自分に厳しい
- 精神的に追い詰められている
- 人間関係のストレスを抱えやすい
- こだわりが強く、柔軟な対応が苦手
- 感受性が豊かで、他人の気持ちや空気に敏感
- 周囲の目を気にしすぎてしまう(対人過敏)
- 睡眠不足や不規則な生活リズムが慢性化している
- 過労や肉体的な疲れがある
- うつ病や不安障害などの既往歴がある
- 家族に精神疾患を持つ人がいる(遺伝的要因)
パニック障害の診断基準
定められた13の症状のうち、4つ以上が当てはまる発作があり、以下の項目の1つ以上に該当する場合に診断されます。
- 更なる発作やその結果を想像した不安・心配が続いている(予期不安)
- 発作を避けるような行動・生活が見られる
13の症状
- 動悸、心拍数の増加、または心臓が脈打つ感覚
- 発汗
- 震え
- 息切れ・息苦しさ
- 窒息感
- 胸の痛み・不快感
- 吐き気・腹部の不快感
- めまい、ふらつき、気が遠のく
- 寒気・ほてり
- 感覚麻痺またはチクチクする感覚(異常感覚)
- 現実感喪失(現実ではない感じ)・自分が自分でない感じ(離人感)
- コントロールを失う、または「気が狂う」のではないかという恐怖
- 死ぬのではないかという恐怖
パニック障害の治し方
パニック障害の治療は、薬物療法と認知行動療法(CBT)を中心に行われます。生活習慣の見直しや周囲の支援も非常に重要です。
薬物療法
抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)
これらの薬は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンのバランスを整えることで、発作の予防に役立ちます。効果が出るまで数週間かかるため、継続的な服薬が重要です。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬)
発作が頻繁に起きる場合、症状を軽減するために抗不安薬が一時的に使用されることがありますが、依存症のリスクがあるため、長期的な使用には注意が必要です。医師の指導の下で適切に使用しましょう。
抗精神病薬や気分安定薬
必要に応じて、他の薬剤を処方することがあります。
認知行動療法
パニック発作を引き起こす不合理な思考や恐怖感に対して、現実的で適切な認知を学ぶことが目標です。例えば、「心臓が速く打っているから死ぬかもしれない」という考えを「心臓の動悸は不安のサインであり、危険ではない」と正しく認知することで、恐怖を減らします。また曝露療法を通じて、発作を起こしやすい状況に少しずつ慣れていきます(例:電車に一駅だけ乗ってみるなど)。身体症状に過度に反応する癖を弱め、「不安=危険」ではないという経験を積み重ねていきます。
生活習慣改善
不規則な生活習慣、睡眠不足、飲みすぎなどの過労やストレスの原因となる生活習慣を取り除きます。その上で、バランスの取れた食事や適度な運動などを無理のない範囲で行いましょう。日常生活の乱れや疲労は発症・再発のリスクを高めるため、次の点を意識しましょう。
- 不規則な生活習慣、睡眠不足の改善
- バランスのとれた食事、適度な運動を無理のない範囲で行う
- カフェイン、ニコチン、アルコールを控える
- 疲労やストレスをため込まない
家族や友人の支援
安心できる人間関係や、つらさを共有できる環境も回復において欠かせません。まずは不安を受け止め、外出や、通院、服薬の継続をサポートしましょう。